育種素材の収集と評価
育種素材の初栽培
初年度にまずは市販の6~8月咲きのコギク品種を購入しました。圃場は高山村蕨平の標高840m地点に設置し、市販種子および当研究所保存の偶発実生とともに栽培してみました。
6~8月咲きの市販41品種は、標記の開花期より2ヶ月ほど遅く開花しました。種苗会社は低暖地を基準に品種を作っているため、これらでは高冷地の栽培には使えないことが分かりました。
また、実生1059株のほとんどが10月以降の開花であり、目標とする9月上旬までに開花したのは33株(3%)のみでした。なお、花色では目標とする白、黄、赤が出現する確率は50.3%と高かったです(図1)。
花径はコギクにふさわしい3cm程度が52.6%を占めました。よって、開花期、花色、花径がすべて目標と合致した個体が出現する確率は0.85%と低くなります。素材からの選抜では困難と判断し交配育種へ移行しました。
人工交配と交配種子の採種
素材の中でも特に早生咲き素材が乏しいため、子房親は全て開花期の早い株のみを選抜しました。(花色、花形、花径、草姿が優れた株を花粉親として選抜)
花粉親は花色で白、黄、赤に分類し各花色の混合花粉を作り、同色の子房親に交配する同花色混合花粉交配として目標花色の出現率の向上を図り、得られた種子を蒔き、次年に栽培特性を調査しました(写真1)。
交配種子の栽培試験と一次選抜
栽培試験
赤、白、黄花色の交配実生78区976本を定植し、1年目の開花を調査した結果、子房親を早生株に絞ることで、集団を大幅に早生化することができました。
前年の市販種子では、秋彼岸までに開花した株は全体の3.1%に過ぎなかったのに対し、交配集団では73.9%が目標時期に開花しました(図2)。
同様に花色についても目標である3花色が出現する確率が74.1%まで向上し、さらに花径3cm以下の出現率も62.8%に上昇しました。
育種効率の改善と一次選抜
これらの結果から開花期、花色、花径がすべて目標と合致した個体が出現する確率は市販種子の0.85%から、34.4%に改善され、これにより、コギクの育種における同花色混合花粉交配の有効性が実証できました。
これらの中から、優良株候補として黄花色154株、赤花色96株、白花色171株を一次選抜し、本来の作型である秋植え台刈り作型に供試して二次選抜としました。
二次選抜
栽培作型について
ここまでの栽培試験では、主に実生苗を材料にしているために、苗を春に植えて盆~彼岸の開花時期を調査するという作型でした。しかし、気候が冷涼な県下では花のボリューム不足になり一般的ではありません。
一方で、前年からの据え置き栽培にした場合には、逆にボリュームが大きすぎ品質も劣ります。そこで県下で奨励している作型として秋植え台刈り作型があります。この作型では秋に、前年の栽培株を小さく割り苗として植えます。翌春に萌芽してきた茎を5月連休に刈り取ります(台刈り)。その後に再萌芽してきた茎が出荷用の切り花になります。
実生から始めると1年目はこの作型では試験できず、彼岸向けまで調査する場合には2年目も厳しいスケジュールになります。そこで、まずは作型による特性の変化を調査しました。初年度に栽培した市販品種および実生苗を据え置き栽培し、春の萌芽を芽整理することで、疑似的な秋植え台刈り作型の試験としました。その結果、開花時期や草型に様々な差があることが分かったのです。
据え置き栽培での特性
1年目と比べて開花期は約8割の株で早くなり、2割の株ではほぼ同じでした。草丈やボリュームは大きくなったものが9割を占めたものの、変わらない株も1割ありました。
これらの特性の変化には、1年目定植時の苗の大きさや2年間の気候の差、越冬のダメージなども含むため、何が要因とも断定できません。このため、1年生実生作型での一次選抜で絞り込み過ぎると、真の優良株を逃す恐れがあると思われました。そこで選抜基準を甘くし、次の秋植え台刈り作型により普及候補を決めることにしました。
秋植え台刈り作型による二次選抜
10月初旬に一次選抜株421株を堀上げ、株を割り小さくして秋植えにしました。萌芽してきた新茎を5月7日に台刈りしました。高山圃場での欠株率は30.9%と高く、当研究所内(標高392m)の栽培では欠株率10.9%でした。
原因は低温期の早遅と、積雪量の差だと思われます。開花をみた株から旧盆向け普及候補として12株(赤:3株、白:5株、黄:4株)を選抜しました(写真2)。また、9月彼岸向けとして26株(赤:10株、白:6株、黄:10株)を選抜しました。これら38株は普及候補として次年度以降に栽培試験を重ねました。
優良株といっても各1株のみのため、欠株となれば品種が消滅してしまうため、増殖も並行して行なう必要がありました。
写真2:旧盆向け普及候補の例
左:NR05、中:NW02、右:NY03
更なる栽培選抜と一次増殖
選抜した38株を秋に堀り上げポリポットに植え、屋外で低温遭遇させ、翌2月末には保温ができるビニールハウスに移動し萌芽を促しました。伸びてきた茎頂および腋芽を材料に、挿し芽により合計767本の苗が作出できました(写真3)。各系統4本ずつを栽培試験および母株保存のために農工研に残し、他の苗は生産地での現地適応試験に試供しました。
農工研の露地栽培では、さらに2回の秋植え台刈り作型による栽培試験を行いました。普及候補株を更に絞り込むつもりでしたが、栽培の年次変動、気候変動などの影響が予想以上に大きく、これ以上絞るのは良くないと判断し育種終了としました。
現在ではこれら優良株候補は、各生産地に移され生産に用いられています。
写真3:挿し穂の調整および挿し芽苗育苗の様子