果実加工品における皮剥きと酵素剥皮
皆さんはミカンを食べるとき、まず最初に何をしますか?皮を剥きませんか?
ミカンの缶詰も皮が剥いてあるように、農産物の加工において剥皮は重要なポイントです。ここでは食品加工における剥皮についてお話しします。
果実加工品における皮剥き
果実の「外皮」という保護膜
果実の皮剥き
皆さんは果実を食べるとき皮を剥きますか?私はミカンは剥きますが、キンカンはそのまま食べます。和ナシは剥くことが多いですが、基本的にリンゴは剥きません。理由は人それぞれでしょうが多くの方が皮を剥いて食べることが多いのではないでしょうか?
果実の外皮は様々な危害から果肉を守る役割をしています。そのため、食感が硬かったり、味も苦かったりしますね。万人受けしやすいという点では皮を剥いてあった方が圧倒的に食べやすいのではないでしょうか?
果実の加工品における皮剥き
果実の加工品と聞くと果汁(ジュース)やピューレ、ジャムを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?これらを製造する際は果実の皮が邪魔になることはほとんどありません。むしろそのまま利用した方がメリットが大きいこともあります。
しかし、シラップ漬け等を製造する際は製品への影響が大きいことから剥皮することを基本としています。
栄養素と品質のバランス
皮には果肉には含まれない様々な成分があります。実際そのような成分を活かした、製品の開発を希望されることも多くあります。
しかし、皮を剥かないことで「見た目が悪い」「味が悪い」「食感が悪い」といった影響があるとしたらいかがでしょうか?商品コンセプトや消費者ターゲットによりますが、私たちは栄養素と品質であれば品質を優先します。嗜好品である上に皮から摂取できる栄養素はごくわずかに留まるからです。
輸入品の実態
輸入品が多い剥皮果実
理由はいくつかありますが、一番の理由は生産量の違いと歩留まりを気にしないことです。日本の果実加工は生鮮流通品の格外などを使うことが多いのですが、海外は加工専用に栽培されているものが多くあります。
また、そもそもの工場規模や生産体制が異なります。そのため、日本では少しでも歩留まりをあげてロスなく製造することを目指しますが、海外では大量に処理して剥皮果実のロスになったものは果汁の製造等に流用しています。絶対的な生産量の違いがコストの抑制につながり、結果的に輸入品が多いことにつながっています。
先に紹介した方法と同様のやり方で剥皮果実を製造しているところが多いようですが、そんな中、中国で製造されているブドウのシラップ漬けの剥皮はなんと手作業で行われているものがあります。人口が多いとはいえ、一日中ブドウの皮を一粒ずつ剥く作業……。頭が下がります。
加工現場での剥皮方法
機械による剥皮
一般的に硬度のある(果肉のしっかりした)果実は機械による剥皮が多くあります。様々なタイプがありますが、基本的にはピーラーでの剥皮を想像してください。それ以外では硬いブラシなどを使って削り取る方法もあります。
- メリット
・連続的に高速での剥皮が可能
・機械による自動加工
- デメリット
・大型機では導入コストが極めて高い
・変型果などは剥皮が困難
・ランニングコストもかかる
・特定の品目に限定されることが多く、汎用性が低い
- 適用品目例
リンゴ、ナシ など
薬剤による剥皮
果肉が柔らかい果実の果皮はアルカリ製剤や酸性製剤により剥皮しているものが多くあります。アルカリ溶液を加熱し剥皮する方法もあります。果皮を溶かして除去する方法で、除去の際に水流やブラシといった物理的な刺激を与えているものもあります。
- メリット
・剥皮表面が平滑できれい
・コンベア等を用いてライン上で連続的に行うことができる
・果実の形状を問わず剥くことができる
- デメリット
・作業中の危険性が高い
・過酷な条件下のため、香りなどが残りにくい
・薬剤の残存等のリスクがある
- 適用品目例
モモ、アンズ など
酵素剥皮
現場導入実績はまだ少ない技術です。穏やかな条件下での剥皮が可能で、加熱等を必要としないため果実本来の食感や香りが楽しめます。少量からでも容易かつ安全に行うことができます。
- メリット
・香りや食感などが残りやすい
・導入コストが極めて安い
・簡単かつ安全に実施することが可能
・少量からでも実施できる
- デメリット
・慣れるまでコントロールが難しい
・品目によって条件が異なる
・連続での処理は困難
・浸漬に時間を要する
- 適用品目例
ブドウ、モモ、ナシ、カンキツ など
果実の新しいステップ
近年、消費動向の変化によって果実の喫食方法も変化しています。
カットフルーツのヒット
売れない丸ごとの果実
売れないというと語弊がありますが、やはり最近は丸ごとのくだものを買う機会は圧倒的に減り、「1個買っても食べきれない」という声が増えています。その要因のひとつに核家族化や単身者の増加があります。以前であれば「1個じゃ足りない。」という家庭が多かったのですが……。
次から次に出てくる新しい品種とカットフルーツ
スーパーマーケットに入ってまず目につくのが青果コーナーではないでしょうか?美味しそうな果実がたくさんあり、迷ってしまいます。そして、「あれもこれもちょっとずつ全部食べてみたい」「初めてだから美味しいかわからないし…。」と、心理的にもなかなか手を出しにくい状況になっています。
そんな中で人気になったのがカットフルーツです。
以前はスイカやパイナップル等が主流でしたが、最近ではカンキツ類からキウイやリンゴ、ブドウなど非常に多くのカットフルーツが販売されています。さらにいろいろな果実をミックスしたパックも「ちょっとずつ需要」にフィットして人気があります。
スイーツとしてのカットフルーツ
以前はスーパーマーケットで販売されているカットフルーツでしたが、最近ではコンビニエンスストアのスイーツコーナーにカットフルーツが陳列されています。「甘いものが食べたいけどカロリーが気になる。」といった消費者には罪悪感なく食べられるカットフルーツが受け入れられたのかもしれません。
カットフルーツに適した皮剥き加工
カットフルーツに求められる品質
カットフルーツに求められる品質は「新鮮さ」「食感」「彩り(見た目)」が主になります。そのため、果実本来の特性を失うような加工(加熱や極端な調味)を避けなくてはいけません。さらに、加工直後にすぐ喫食するわけではないため、家庭で出てくるような状態を維持するための工夫も必要となります。
酵素剥皮の実用化
実はすでに一部のメーカーが酵素剥皮を利用したカットフルーツを製造・販売しています。そのほとんどはカンキツですが、内皮まできれいに除去され、みずみずしさが伝わってきます。そしてこの技術は先にも紹介したようにコツさえつかめば簡単に行うことができます。
酵素剥皮の可能性
これまでは適用品目の主流がカンキツでしたが、当研究所と近畿大学が共同で開発した新たな酵素剥皮技術では、ブドウやモモ、和ナシも剥皮することができます。これまでのカットフルーツ加工は一定程度のスペースが必要でしたが、バックヤードが広くないフルーツショップやセントラルキッチンを持たないカフェでの活用も可能です。