食事の安全性をサポートする酵素剥皮の活用
酵素剥皮は対象とする品目や手法にはよるものの、特別な装置を用いることなく簡単に実施することができます。ここでは、小規模な事業所や家庭、大量調理の現場などで活用できる可能性についてご紹介します。
果実の皮の扱い
皆さんはリンゴの皮を剥く派ですか?剥かない派ですか?私は基本的には剥かない派です。面倒だからというよりは、食感や香りなどを楽しむために剥きません。最近ではスターカットと呼ばれるカット方法が流行り始めたことにより、皮を剥かずに食べるという方も増えつつあるかもしれません。
ただ、食感が気になるといった理由や、剥くのが普通と考えている方も多くいますので、一般的には剥いて食べるという意見の方が多いのではないでしょうか。
敬遠されがちな家庭での皮剥き
以前、カンキツの生産をされている方と話をした際に、「最近はミカンを剥くのも嫌がる人がいる」との話を聞きました。手で剥けるのになんで?と思いましたが、剥く際に果汁が手についたり、爪の間にカスが入ってしまうのが嫌だからという理由が多いそうです。面倒という理由はあまり聞かれないようですが、汚れた手を洗うのが面倒だからと解釈してしまえば同じことかもしれません。
また、皮を剥いたり、種を取ったりすればゴミは出ます。田舎であればコンポストなどすぐに捨てられる環境がありますが、可燃ごみもしくは生ごみとして、指定されたゴミ袋で出さなければいけない地域がほとんどだと思います。そういった方たちからすれば、できる限りゴミを減らしたいと思うのは当然でしょう。
皮ごと食べられる品種の登場
近年では、ブドウを中心に、皮ごと食べられる品種が多く開発されています。皆さんも良くご存じのシャインマスカットはもちろんのこと、長野県のオリジナル品種ナガノパープルやクイーンルージュも皮ごと食べることができます。
ところで、この皮ごと食べられる品種って巨峰などと何が違うのでしょうか?実は若干皮が薄い程度でほとんど変わらないのです。皮が薄い以外にも渋味が弱いなどの要素もありますが、巨峰も皮ごと食べても問題はありません。「皮が食べられない品種」と「皮が食べられる品種」があるわけではなく「皮ごと食べても皮が気にならない品種」があるというだけです。
皮ごと食べる海外の文化
日本では皮を剥くというスタイルが一般的ですが、海外では皮を剥かずに食べる方が多くいらっしゃいます。海外から旅行で日本に来られた方に巨峰を提供した際、皮ごと食べていたので「皮を出した方が美味しいかもしれません」とお伝えしたのですが「なんで皮なんか出すんだ?食べられない何かがあるのか?」と言われてしまいました。その方にお聞きしたところ、基本的に苦味が強いものや硬すぎるといった問題がなければ、皮ごと食べるそうです。
皮ごと食べる危険性
子どもの誤嚥
実は子どもの誤嚥事故には国内外を問わず、果実や野菜が原因となるものが多くあります。その中でもブドウとミニトマトは比較的件数が多くあります。また、これらが原因となった気道閉塞事故の場合、他の食品に比べ、最悪のケースになる確率が高いことも知られています。形状が丸く咀嚼時にそのまま喉の奥に行ってしまうケースが多いようです。
高齢者の誤嚥
高齢者についても同様の傾向があるようです。また、高齢者の場合は咀嚼力が低下することにより、果皮が噛み切れず、摂食・嚥下障害により誤嚥し、気道閉塞に至ることが多いようです。
誤嚥を防ぐために
お正月が近づくと、餅をのどに詰まらせた事故のニュースなどを耳にすることが多いのではないでしょうか?そんな時、必ずと言っていいほど「お餅は小さく切って…」というコメントを聞くかもしれません。これは何もお餅に限ったことではなく、他の食品でも同じことが言えます。小さくカットすることで、いざという時に気道閉塞を防ぐことができる可能性があります。
また、ブドウやミニトマトの場合、皮を剥くことで誤嚥のリスクを減らすことができます。皮を剥くことで果皮による気道閉塞リスクの低減はもちろんですが、咀嚼しやすくし、誤嚥リスクを低減することにつながります。
酵素剥皮の活用で食事の安全をサポート
学校や病院での大量調理に
酵素剥皮のメリットは、導入コストを抑えて取り組めることと使用した酵素液等の廃棄が容易である点にあります。大量調理の場では危険な薬剤等はコンタミネーションのリスクもあるため使用を避けなければいけません。
また、複数の調理を同時並行で行う必要があり、できる限り容易に作業できる事が重要となります。例えばブドウの場合、完全に剥いてしまうこともできますが、あえて皮を残した状態で剥きやすくして提供することも可能です。
旬の美味しい食材の提供
嚥下困難者の方に食事を提供する際、すでに加工され柔らかくした食品を使うことが最も楽だと思います。しかし、旬の時期の美味しさではありません。提供する側の負担を考えると全てを旬のもので揃えることは困難であるし、継続性に課題があることも確かです。
しかし、酵素剥皮のような加工技術を応用して補助してあげることで旬のものを食べることができる機会を提供できるのであれば、選択肢として検討する価値はあるのではないでしょうか。
導入に向けた検討
導入に向けてはクリアにしなければいけない課題も多くあります。ただし、すでに提供数に応じた設備をお持ちの場合は比較的低いハードルで導入することが可能となります。
検討課題①:酵素製剤の安全性
- 検討内容
・食品用酵素製剤の場合、大豆由来成分等が配合されている可能性
・酵素自体がアレルギー症状を引き起こす可能性(ただし、酵素製剤自体を直接触れない限り危険性は低い)
- 対応・確認事項
・安全データシートでの確認
・アレルギー物質が含まれていない酵素製剤の選択
・作業者への教育
検討課題②:対象品目への適性
- 検討内容
・酵素剥皮を行いたい品目に対しての適性を確認する必要
・品種間差の確認
- 対応・確認事項
・品目ごとの適性及び条件出し
・品種ごとの適性及び条件出し
検討課題③:必要資機材
- 検討内容
・酵素剥皮用の新規機材の購入
・酵素製剤の購入
- 対応・確認事項
・現在使っているボールやバット、ザル等で対応可能
・酵素製剤についてはメーカー、商社からの購入が可能
・対象品目によっては一部新規購入が必要
検討課題④:提供方法
- 検討内容
・最終的な喫食対象者の想定
・提供方法の想定
・提供場所
- 対応・確認事項
・喫食者が通常の食事を摂取できる状態か否か確認
・給食等のスタイルで管理者もしくは補助者の目の届く範囲での提供か否か確認
・提供場所が加工場所に直結しているか否かの確認
当研究所ではこれまでの試験蓄積により様々な対応方法を提案することができます。すぐに導入予定がない方やなんとなく話を聞いてみたい方など、お気軽にお問い合わせください。